「ドイツ写真の現在」感想文集(4)
      ベルント&ヒラ・ベッヒャー

最近ベッヒャー夫妻が気になっている。
昔から有名な作家なので、今さら「気になっている」もくそもないのだが、
やっぱり気になっている。
実は写真集が欲しいなと思っているけど、ちょっと高いのでがまんしていて、
本屋にときどき写真集を見に行ったりしているのだけど、
先日いつもいっている本屋にいってみたら売り切れていてすごいショックで・・・
という具合に気になっている。

ベッヒャー夫妻といえば、現在のドイツ写真の流れを作った大家である。
デュッセルドルフ美術アカデミーの先生をしていて、
そこからグルスキーやトーマス・シュトルートなど数々の写真家を生むなど、
教育者としても重要な仕事を残している。
給水塔、冷却塔、溶鉱炉などの産業建築物を、真正面から同じようなアングルで、
同じような光線状態で撮影し、それをグリッド状に配置して展示することで有名である。*
私がベッヒャー夫妻の写真が気になるのは、
このグリッド状に配置された給水塔や冷却塔の写真が、
なんともいえずおかしいからだ。
見ていると、笑いがこみ上げてくるのである。
細部まで克明に映し出された建築物、一つひとつの形の面白さ、
さらにそれが並んでいることで、なんともいえないおかしさが生まれる。
作者は極めて真面目だと思うのだが、
真面目であるほどに私はそこにユーモアを感じてしまうのだ。
さらにもう一つ、作品を見ていて、
よくぞここまでやるなあ、とあきれながらも、
やっぱりおかしさがこみ上げてくる。
以前、トーマス・シュトルートのアシスタントをしていたという写真家の方に直接聞いたことがあるのだが、
ベッヒャー派の人たちは、曇りの日になると講義を休んで撮影に出てしまうとのことだ。私には、その曇り空を待っている気持ちがとてもよく分かる。
そして、撮影対象やアングルや真剣に検討し給水塔を撮影しているところを想像すると、思わず笑ってしまうのだ。
この「ここまでやるか感」は、ベッヒャー夫妻から派生するドイツ写真にある程度共通していて、ドイツ写真の面白さの源になっているように思う。

ところで、ベッヒャー夫妻は、夫婦(めおと)で作品を作っているのだが、
これ、結構ポイントになっているような気がする。
写真というと、個性の発露みたいな感じで、個人的な作業が前提になっているような気がするのだが、
夫婦が共同で作業していることが個性によって物を見るのではなく客観的に物を見るというイメージにつながっているような気がする。
ドイツには結構夫婦で活躍している作家がいるということを聞いたことがあるが、
日本ではどうだろう。
どうも夫婦漫才のような感じになっていただけないような気がするが・・・。

今回の展示ではたくさんの作品が出されていて、
ベッヒャーワールドを味わうことができ、幸せであった。
工場の全景を映し出すIndustrialLandscapeもたいへんよかった。
私は、こういう正面から撮られた精緻なモノクロ写真が好きで、
いつまでも眺めていたいと思った。
遠くから見ると美しく全体が浮かび上がり、近づくと細部が立ち上がってくる。
プリントの完成度も高く、見ることの幸せを味わった。

と、まあ、好きな作家で、甘々の感想文となりました。
お粗末。

Typologies of Industrial Buildings (The MIT Press)

Typologies of Industrial Buildings (The MIT Press)

Industrial Landscapes (The MIT Press)

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